365日のラブストーリー
「いっぱいお話してしまいました……、また会えるんだって思うとほんとうに嬉しくて。わたし幸せでこのまま死んじゃうかもしれません」
 気恥ずかしくなって立ち上がると、膝の上からストールが滑り落ちる。

「まだ死んでる場合じゃありませんよ」

 神長は軽く笑って、有紗が膝の上から落としてしまったストールを拾い、汚れを払う。それから霧笛楼の紙袋を掲げた。

「このあいだ元町に来たときに、物欲しそうな目でショーウィンドウを眺めていたので、今日は買っておきました」

「わたしのために?」
「はい」

 そういえばもうすぐバレンタインデーだ。ほんとうはこの時期にチョコレートをあげるのは自分じゃなければいけなかったのだ。
 決別するつもりで来た有紗には、何も用意がない。

「それはあの、受け取れないというか。だって。……あ」
『みんなが』と『普通は』は、神長との間ではなしだ。有紗は言葉を飲み込んで、手を伸ばした。
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