365日のラブストーリー
 神長の気持ちを代弁するとまではいかなくても、少しでも考え方を伝えられたら、坂巻ならばなにかを察してくれるかもしれない。

(神長さんにとって代わりが居ないと思うほど大切な人だもの。どうにかしなきゃ)

 坂巻の出勤時間はいつも始業よりも一時間以上早い。積み残しの仕事を片付ける目的もあって早く家を出た有紗は、総務部に顔を出してみようと考えていた。

 有紗は通勤電車の中でスマートフォンをチェックした。システム課の出勤情報とスケジュールを一通り見るが、会議の予定はなさそうだ。

(思い立ったときに動かなきゃ)

 電車を降りて、まっすぐ会社に向かおうとすると、改札のあたりで千晃の姿が見えた。いつもなら心暖を送ってから出社するはずで、この時間にはいるはずがないのだが、いったいどうしたのだろう。

 千晃の背中に追いついてしまわないように、有紗は歩みを遅くした。

(このまま後ろを歩いていたら、坂巻さんとふたりで話が出来なくなっちゃうし)
 他のルートでどうにか会社に早く着いたとしても、数分後には千晃が追いついてくるだろう。
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