365日のラブストーリー
 はじめてのキスは、もっと特別な瞬間になるはずだった。好きな相手とデートを重ねて、互いをもっと深く知りたくなったら。心の深い場所に踏み込む勇気が出たときに、扉の開く鍵がキスというものだと思っていたのに。

(でも……)

 千晃の顔を思い出す。彼の心の平穏に自分が関係しているのなら、それを壊したくはない、そうやって考えるのはおかしなことだろうか。

 エレベーターが目的地に到着する。有紗は心の矛盾に悩みながら、弱々しく立ち上がった。



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