365日のラブストーリー
 会話が止まり、そこにいた全員の視線が有紗に突き刺さった。

「お、おはようございます」
 有紗はしどろもどろになりながら挨拶をする。

「おはようございます。どうしましたか」
 真っ先に応答したのは神長だった。目線は鋭く、仕事用の硬い声だ。視線が腕に降りてくると、千晃はぱっと手を離した。

「綿貫さんが坂巻さんに用事があるみたいだったんで、連れてきてみたんすけど」
 千晃がぶっきらぼうに応えた。

 人事部の用事が思い当たらなかったのだろう、坂巻は驚いた様子で「僕?」と首を傾げる。断りを入れてから席を立ち上がり、坂巻はシステム課のパーテーションを越えた。有紗も頭を下げ、背中を追った。

「どうしたの、綿貫さん」
 ミーティングの最中に割り入って話すような内容じゃない。有紗が口ごもると坂巻は表情を和らげた。

 サイズ感の良い明るめの紺スーツに、グレーのVネックセーター、ライトブルーのクレリックシャツ。額が出るほど短く刈られた髪とあっさりした顔立ちに合わせると、派手になりがちなスタイルも品良くまとまって見える。
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