365日のラブストーリー
 今思えばそれも大切な気づきだったはずなのに、時間に流されていつの間にか忘れてしまっていた。
 神長と一緒にいると、なにげなく通りすぎてしまっていた気持ちを思い出す。それは、彼の中に当たり前のように、見えにくいものへの想いがあるからだ。

(わたしはきっと、自分だけが特別扱いされることよりも、神長さんがたくさんの人に対して向けている優しさを、側にいて一緒に感じるのが好きなんだなあ)

 きっとこんなことを話したら、友人全員から本気で心配されるだろうし、誰も理解してくれないだろうとも思う。神長と自分だけの関係。その言葉は文字通り、他人にはわからない。

 有紗はテーブルを挟んだ向かい側に座っている、神長に目を向けた。彼のくつろいだようすを眺めていると、それだけでここに来て良かったと思える。

「今、何を考えてます?」
 ふいに神長が目を覗き込んできた。

「見つめ合うよりも、同じ方向を向いていたいって思うのは、おかしなことでしょうか」
「そんなことはないと思いますが」

 少しだけ眉根を寄せ、神長は椅子を立ち上がった。セミダブルベッドの縁に座り直し、膝の上で指を組む。彼は何も言わなかったが、その目線から誘われているような気持ちになり、有紗はすぐ隣に座った。
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