365日のラブストーリー
2

 カーテンの隙間から日差しが差し込んで、有紗はベッドから身体を起こした。窓に駆け寄って思い切りカーテンを開けると、中心地のいちばん賑やかな通りをはさんだ向こう側、鮮やかなエメラルドの海が見える。

「ああ、すごい」
 ロックを外して窓を開ける。暖かな微風に抱かれて、東京か背負ってきたものがやさしく剥がれ落ちていく。

(神長さんがどうして海の側に住んでいるのか、ちょっと気持ちがわかる)
 有紗はベランダの柵に肘をついて、休暇中の神長の姿を想像した。優しげな顔を思い出すだけで、顔が火照る。

 仕事中の姿しか見たことのない人には、プライベートではどちらかというとおおらかな、神長の素顔など思いつきもしないだろう。

(……早く会いたい)
 明け方に到着する有紗の体調を気遣って、夕方まではのんびり過ごすように言われている。ほんとうなら「朝からでも大丈夫です」と主張したかったが、素直に聞き入れた。

 今日の午後、坂巻は到着した足でそのまま神長に会いに行くと言っていた。きっと二人だけで話をしたほうがいいに違いないからだ。
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