セツに思う、君のことを。
 見渡す限り一面、白銀の世界。
 なんて、ありふれた言葉しか出てこない。

 朝、目覚めると外の景色は白銀で染まっていた。彼女の言う通り、深夜の間に雪が降り積もったようだ。

 ベッドから抜け出し、ベランダ側のカーテンを開く。朝日と純白の雪のコントラストが、視覚を眩ませ、刺激した。

 彼は椅子の背もたれに掛けられているカーディガンを手繰り寄せて、羽織る。

 寒さで悴む指先で携帯を操作して、電話を掛けた。五度目のコールで相手は応答した。

「……おはよ。もう、起きてたんだ。早いね」

『…………』

 ──起きてたよ。珍しく、君より早く。

 一方通行の会話に寂しさが募る。

 本当は、こんな些細なことを二人で笑い合ったり、喜び合ったりしたかった。

 でも、出来ないね。
 僕には、そんな簡単なことさえ出来ない。

「今日は何処に行こっか。公園で雪だるまとか作ってみたいね」

 ──うん。そうだね。

 彼女の楽しげな声が携帯のスピーカー越しに伝わる。

 自分とは違う場所から彼女も同じ景色を見ている。それだけで、彼は幸せだった。

 今日の待ち合わせの場所を告げて、彼女は通話を切断した。
 
 けれど、雪は溶けていくのを待ってはくれない。彼等が公園に着く頃には、跡も形も無く、その姿を消しているのだろう。

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