セツに思う、君のことを。
 陽が傾き、ゆっくりと地平線の彼方へ沈んでいく。少し赤みを含んだオレンジ色の淡い光が、二人を照らしアスファルトに影法師を作る。

 歩く度、揺れる影は少しお互いに近付いては離れてを繰り返していた。

「あ、イルミネーション」

 声を上げ、彼女が指差した方角へ目線を移すと街路樹に、イルミネーションの装飾が施されていた。

 陽が完全に落ちれば、色とりどりの輝かしいイルミネーションが、毎年この街を包み込む。

 幸せが具現化したような景色を見る度に彼は、心の何処かでいつも嫌悪感を覚えていた。

 それなのに何故か、今年はこのイルミネーション通りを彼女と歩けるだろうかと、まだ点灯されていない街路樹の装飾を眺めながら思う自分が、ここにいた。

 期待という言葉が自身の胸を掠める。

 彼は携帯のメール機能を利用して、文字を打ち込み、画面を彼女の視界へかざす。

「……ん、明日?」

『明日、一緒にイルミネーション見れない?』

 彼女が覗き込んだ携帯の画面には、そう一言だけ書かれている。

 ほんの一瞬の間が、彼の緊張感を煽る。クリスマスシーズンは皆、予定が詰まっていることが多い。

 彼女もまた同じように、一年に一度のイベントを友人と楽しむ予定ではないのか。伝えてから不安に駆られた。

< 5 / 10 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop