セツに思う、君のことを。
 ふっ、と突然に向けられた視線は彼を捉え、彼女は首に巻いていた崩れたマフラーの位置を直しながら柔らかく微笑んだ。

「いいよ。アルバイト終わるの夕方だから、現地集合でもいい?」

 彼女を言葉を聞き、彼はゆっくりと頷く。心の奥底から、じんわりと優しくて温かな感覚が湧き上がる。

 ああ、そうか。これが友人と恋人の違いかと、彼は初めて知った。

 嬉しさが胸の奥底から、とめどなく溢れ出すのに、言葉を声に出して表現することは出来ない。

 声を出せない自分に、悲しさと苛立ちが心の中で混ざり合っていくのを感じた。

 本当はこんなにも嬉しく思っているのに。

 どうして、君に伝えられないんだ。
 どうして、僕には声が無いんだ。

 声が無くとも僕の、この気持ちは君に届いているだろうか。
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