セツに思う、君のことを。
 あの時、僕がイルミネーションを見たいなんて言わなければよかった。そしたら、君は──。

 ◇

 彼は予定よりも三十分ほど早く現地に到着し、時間を潰すために街中を宛もなく歩いていた。

 辺りの店はすでにクリスマスムード一色だった。おそらくプレゼントが入っているのだろう、お洒落なショップバッグを手にぶら下げた男性が足早に通り過ぎて行く。

 ダッフルコートのポケットから携帯の振動が伝わり、確認すると彼女から一通のメールが届いていた。

『着くの少し遅れそう。ごめんね』

 彼女のメールに返信をして、時間を確認する。約束の時間まで、まだ余裕がある。

 彼女は遅れると言った。なら、彼女がここに到着するまでの間にプレゼントでも選ぼうか。

 そんな思いに駆られ、彼は小さなアクセサリーショップへと足を運んだ。

 彼女の雰囲気に合わせた雪の結晶を象った、小さなネックレスを購入して店を出る。

 すっかり陽は落ちていて、暗闇が街を覆い、頬を切るような寒さが辺りに停滞していた。

 待ち合わせの時刻が、一秒毎にまるで何かのタイムリミットのように刻々と迫ってくる。

 往来する人の波を眺めている間に、約束の時間はとうに過ぎていた。

 気がつけば街路樹のイルミネーションは点灯し、漆黒に浮かび上がる人工的な光が自身の存在を示すかのように強調している。

 ──もしかしたら、このまま。君は来ないのかもしれない。

 何度も携帯のメール受信ボックスを確認して見ても、新着の二文字は無かった。

 顔をあげると、星が煌めいている澄んだ夜空から、あの真っ白な雪が舞い落ちてきた。

 ──僕が望んだはずの雪だった。
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