ずっと恋していたいから、幼なじみのままでいて。
「田中さん……」


「短い間だったけど充分幸せだったから、もうお終いにします。明日から甲斐先輩とは一切会いません。最後に橋元先輩にどうか謝罪させてください」


ペコリと頭を下げて、彼女は「本当に済みませんでした」とまた謝った。


そして頭を上げた後はもうひと言もしゃべらず、ボンヤリした表情でクリームソーダをただ眺めている。


なんだか空洞みたいに虚ろな両目を見て、思った。


鏡に映った自分の顔を見てるみたい。


この子は、あたしと同じように、かけがえのない大切なものを失ってしまった。


そしてきっと、泣きながら心の底から願ったんだろう。


これ以上なにも失いたくないって。


でも一番失いたくない人の心は、最初から手に入らないことを知っていた。


そしてこの子は、もうすぐ遠くへ行ってしまうんだ。


……ねえ? 幸せだったなんて言って、本当に?


しょせん嘘の関係だってこと、誰よりも自分が一番知っているのに。


嘘だって思い知りながら雄太の隣に立って。


嘘だって思い知りながら、あのきれいな微笑みを見上げて。


嘘だって思い知りながら、繋いだ手の温もりに心を熱くする。


そして『これで幸せなんだ』と自分自身に言い聞かせて、もう二度と好きな人とは会えない場所へ、あなたは行ってしまうというの……?
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