ずっと恋していたいから、幼なじみのままでいて。
「グスッ」


「先輩?」


洟をすすりながら指先で目の下を拭うあたしを、田中さんがビックリして見てる。


自分でも、泣くなんて変だとは思う。


でもね、わかっちゃうんだよ。田中さんの気持ちが。


これまで、ずっと信じてたんだよね?


自分の大切な居場所も、かけがえのない人も、積み重ねてきた時間も、絶対になくならないって。


でも、ぜんぶ失った。


宝物だと信じて疑わなかったものたちは、ただの勘違いで、あっけないくらい簡単に空っぽになっちゃった。


だから最後に、自分の中に残った大切なものに、すがったんだ。


ずっと好きだった人。


嘘でも、幻でもいい。幸せだった記憶の証になる思い出のカケラが欲しかった。


なにもかも失って遠くへ行く前に、ほんの束の間だけ。


「わかって、るから」


グスグスとすすり上げる合間に、あたしは一生懸命になって彼女に訴えた。


あたしには、どうしてあげることもできない。


自分のことだって、どうにもならないまま持て余しているのに。
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