ずっと恋していたいから、幼なじみのままでいて。
ただ、あたしがわかってるってことだけは知っていてほしい。


あなたの気持ちは誰にも知られないまま、消えちゃうわけじゃないってこと。


あなたの真剣な悩み。


あなたの心の底の苦しみ。


あなたの小さな喜び。


あなたの精一杯の恋。


「知ってるから。あたしは、たしかに、知ってるから」


声を震わせながらそう繰り返すあたしを、田中さんはポカンと口を開けて見ている。


やがて彼女の両目がじわりと赤くなって、みるみる涙が盛り上がった。


桜色の目尻から、水晶みたいに透明な涙がツーッとこぼれて、彼女の胸元に落ちる。


水晶はポロポロと流れ落ち、どんどん胸元を濡らしていった。


「ありがと、ござ、ます……」


うつむいて涙を流しながら鼻の詰まった声を出す彼女に、あたしも似たような鼻声で答える。


「引っ越しても、元気で、ね」


「はい。あたし、向こうに行っても頑張ります」


「うん」


「頑張れると思います。素敵な思い出をもらったから。ちょっとずつ少しずつでも、きっと前を向けると思います」


「うん。うん」
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