ずっと恋していたいから、幼なじみのままでいて。
本当は、そんな自信なんかないって知ってる。


悲しくて、不安でいっぱいで、これから先どうなるんだろうってことばかりを考えてる。


でも田中さんはどうしたってその、不安でいっぱいの場所に行くしかないんだ。


だから『きっと大丈夫』って言葉を、懸命に自分に言い聞かせている。


それが彼女にできる精いっぱい。


わかるよ。その気持ち、わかってるよ。


何度もうなずくあたしの目からも、涙が幾粒も落ちた。


初めて入った喫茶店で、初めて話す者同士が、涙をボタボタ流しながら向かい合って座ってる。


しかもあたしたち、恋のライバル同士だよ?


笑っちゃうよね。でもふたり、切ない想いを共有してるんだ。


なんだか不思議だね。


とても不思議で、どうしようもなく悲しくて、それでもやっぱり慰められる。


胸の中にコッソリとうずくまっている、自分じゃどうにもならない苦しみを、柔らかい手でそっと撫でてもらっている気がするんだ。


「橋元先輩も頑張ってください。きっと大丈夫ですよ。だって甲斐先輩がついてるんだから」


涙でビショ濡れの顔でニッコリ微笑みながら、そんな優しいことを言わないでよ。


ますます泣けて、どんな言葉を返せばいいのかわかんなくなる……。


赤ちゃんみたいに唇をへの字に曲げて、ひたすら頬の涙を擦るあたしに、田中さんは大きく洟をすすって肩をすくめてみせた。
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