ずっと恋していたいから、幼なじみのままでいて。
「あたしの話が長くて先輩のコーヒー冷めちゃいましたね。ごめんなさい」


「いいよ。そんなの」


「コーヒーが飲めるなんて、先輩って大人だなあ。あたし苦手なんです。ミルクと砂糖をいっぱい入れて、どうにか飲める程度で」


「実はあたしも苦手なの。本当のこと言うとね、クリームソーダが一番好き」


「なあんだ。一緒ですね」


田中さんは笑顔で「よかったらひと口どうぞ」って、自分のクリームソーダを勧めてくれた。


あたしはお礼を言って素直に受け取り、ストローに口をつける。


甘いメロンの香りがするグリーン色の液体が、口の中でシュワッと弾けて、心地いい。


「やっぱりこれが一番おいしい」


「ですよね」


べつに無理して苦手なコーヒーなんか飲まなくてもいいや。


だってほかのことだって、あたしたちはいっぱい我慢してるんだもん。


好きなものを素直に好きって言うくらい、いいんだよ。


目の周りと鼻の頭を同じように赤くしながら、あたしたちは微笑み合った。


店内には、初めて聞くジャズっぽい軽快な曲が流れてる。


英語だから歌詞の意味はぜんぜんわかんないけど、唯一なんとか聞き取れる部分は『スマイル・フォー・ミー』。


うん。それだけ伝われば十分だ。


だからせめて笑おう。あなたのために。


どうか元気でね。田中さん。


元気でね。頑張ってね。


頑張ろうね……。

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