ずっと恋していたいから、幼なじみのままでいて。
田中さんと別れて、喫茶店を出たあたしは、そのまま真っ直ぐ家へ帰った。


足取りは軽くて、心の中はなんだか言葉にできない不思議な感情で満ちている。


切なさとか、共感とか、慰めとか。よくわかんないけどちょっと寂しくて、それでも温かいものが、自分の奥から静かに湧いてくるんだ。


田中さんと会えてよかった。話せてよかった。心からそう思う。


雄太との件も誤解だってわかったし。とにかく本当にホッとした。


明日、雄太と会ってちゃんと話したいな。


この先あたしたちがどうすれば一番いいのか、まだ答えを決めかねているけど。


それでも、なにも伝えないままでいいとは思えない。


あたしも少しは田中さんや海莉を見習わなきゃ。


ちゃんと雄太と話したら、あたしたちの関係がいい方向に変わるかな。


なんだかちょっぴり未来に光が見えた気がする。


家に着いて、お母さんに買い物した品を手渡して、(お母さんはなんだかパン粉が異様に粉砕してる気がするって不思議がってたけど)、それから自分の部屋で休んでる間もずっと気持ちが明るい。


雄太に話すことを考えているうちに、あっという間に夕飯の時間になって、お母さんに呼ばれたあたしはダイニングに向かった。


なんだかお母さんとも、久しぶりに楽しく会話できそうな気がする。


……でも。


そんな風に思っていたのも、束の間だった。


向かい合ってご飯を食べているお母さんが、とても言いにくそうな声で、とんでもないことを言い出したからだ。


「あのね瑞樹。明日お父さんがね、離婚届にハンコを押しに家に来るの……」





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