ずっと恋していたいから、幼なじみのままでいて。
もうじきお父さんが家に来る。


そしてふたりで一枚の紙きれに署名して、ハンコを押して、それを役所に届けるだけ。


あたしたち家族が過ごした二十年間が、結局は失敗で、なんの意味もなかったってことが、そんな簡単な行為で証明されちゃうんだ。


「はあっ」


考えれば考えるほど胸が重くなって、また深いため息が出た。


今日で家族が終わり、すべてが変わる。


べつに住む家が変わるわけじゃないし、昨日までだってお母さんとふたりだけの生活だったし。


これからあたしの私生活に、目に見えた変化が起きるわけじゃないけど。


そういうことじゃなくて、もっと自分の中の根本的なことが変わってしまう気がするんだ。


漠然として捉えどころのない不安が、灰色の雲のように重く垂れこめる。


雲の先がどんななのか、なにがあるのか見えなくてすごく怖い。


窓から外を眺めれば、道路沿いに並ぶ家々の玄関や、庭の芝生や、脇道を走る車が見える。


なんの変哲もない、毎日目にする淡々とした景色だ。
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