ずっと恋していたいから、幼なじみのままでいて。
こんな普通の世界のあちこちに、きっと数えきれないほどの見えない悲しみがあふれている。


田中さんと話して、それを知った。


あたしひとりだけの苦しみじゃないと思えば、少しは慰められるけれど……。


―― ピンポーン


不意に玄関チャイムが鳴り響いて、ビクッと全身が震えた。


きっとお父さんが来たんだ!


急に部屋の温度が下がったのかと思うほど、緊張のせいで体が冷える。


あたしは立ち上がることもできず、イスに座ったまま無意味に背筋を伸ばした。


玄関の方から小さな話し声がするけれど、この距離じゃほとんど聞き取れない。


ドクドクする自分の鼓動の音が聞こえるだけだ。


どうしよう。あたし、べつに顔を出さなくてもいいんだよね?


それとも家族として同席するべきなの?


こういうときって、子どもはどんな態度をとるべきなのかわかんない。


田中さんはどうしていたのか聞いておけばよかっ……。
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