ずっと恋していたいから、幼なじみのままでいて。
急にケンカがピタリと収まったと思ったら、お父さんが家を出て行ってしまったんだ。


『瑞樹、お父さんとお母さんな、少し距離を置いて冷静になろうって話し合ったんだ』


『ごめんね。でも大丈夫だから。きっとまた元通りになるから心配しないでね』


久しぶりにソファーに並んで座ったふたりから、真顔でそんな宣告をされた。


もうそれは大人同士の間で決まったことで、娘のあたしの気持ちも反対も、あったもんじゃなくて。


相談ひとつされなかったあたしは、黙ってうなずくしかなかった。


そうして、問答無用でお母さんとあたしのふたり暮らしが始まったんだ。


「おじさん、たまに帰ってくるんだろ?」


「うん。あたしに会いにね。お母さんとは口もきいてないみたいだけど」


お父さんがまだ家にいた頃、両親のケンカを見るのがすごくすごくつらくて、苦しかった。


親のケンカが楽しい子どもなんて、世界中のどこを探してもいないと思うけど。


でもケンカしてる間は、まだいいんだ。ケンカもできなくなったら……もうダメなんだね。


「不仲な両親を持つと子どもは本当に苦労するよ。ま、親の復縁は今さらもう諦めてるけどねー。あはは」


あたしは顔を上げて、前を向いたまま笑い飛ばした。


だってさ、笑うしかないんだもん。


本音は笑うどころじゃない。でもこうやって自分を騙していないと、足元がガラガラ崩れ落ちそうなんだ。


まだギリギリ保っているものが崩れ落ちて、二度と元に戻らなくなっちゃいそうで怖い。
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