ずっと恋していたいから、幼なじみのままでいて。
家の中に入りたくない。


入ったらきっと、恐れていることと向き合わなきゃならなくなる。


悶々と考え込んでいる間に、辺りは急速に暗さを増して、空気も視界も濃い藍色に変化していく。


……わかってる。いつまでもこうしているわけにはいかないってこと。


覚悟を決めたあたしはドアを開けて、家の中に入るしかなかった。


家の中は電気がひとつも点いていなくて、その暗さのせいでますます不安が募る。


玄関で靴を脱ぎ、たいして長くもない廊下をノロノロと進んで、リビングに向かった。


大きく開け放たれた白い扉の向こう側から聞こえてくるのは、お母さんの泣き声。


その悲しい小さな泣き声が、どうしようもないほどあたしの嫌な予感を確信に近づける。


おそるおそるリビングに一歩踏み込むと、暗い部屋の中でソファーに崩れるように倒れ込んで泣いているお母さんの姿が、目に飛び込んできた。
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