ずっと恋していたいから、幼なじみのままでいて。
「幼なじみに終わりはないけれど、恋には終わりがあるの。お母さんたちは恋人同士になった時点で、終わる可能性のある道を進んでしまったのよ。そして今日、終わりがきてしまった」


空洞みたいに虚ろなお母さんの両目から、涙が次々とこぼれ落ちる。


「こんなことなら……」


震える言葉は、あたしよりも自分自身に語っているように聞こえた。


「想いを……伝え合わなければよかった……」


振り絞るようにそう言って、お母さんがまたソファーに崩れ落ちてすすり泣く。


まるで力尽きて倒れた動物みたいなその姿に、かける言葉なんか、どこにも見つからない。


ただもう、『ああ、この家族は終わったんだ』っていう、抗いようのない事実だけが目の前にある。


この悲しい事実を目にし続けるのは、あまりにもつらくて。


無力なあたしは握りしめた拳を緩めて、黙ってここから立ち去ることしかできなかった。


フラつきながら階段を上がり、自分の部屋に入ってドアを閉め、カーペットの上にペタンと座り込む。


心は『どうしよう。どうしよう』って、なにかに追い立てられるみたいに焦っている。


なのに頭はボンヤリ霞んで、なにも考えられないよ。
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