ずっと恋していたいから、幼なじみのままでいて。
振り絞るような声を吐く唇が、涙に濡れたあたしの頬を慰めるようにそっとキスをした。


柔らかい唇の感触と温もりを感じた瞬間、意識が震えて、足の先まで衝撃が走る。


息が止まって、心臓が胸から飛び出しそうになった。


「お前を守るのは俺の役目だ。他の誰にも譲るつもりはない」


「雄、太……」


「俺の気持ちを受けいれてくれよ。本当に好きなんだ」


頬に何度も繰り返される優しいキス。


あたしを抱く腕の力がだんだん強くなって、声に熱がこもる。


息苦しいほど抱きしめられて、ドキドキはもう限界なのに、さらに暴走していく。


急激に顔に集中した血が皮膚を刺激して、ヒリヒリ痛い。


どうしよう。バクバク飛び跳ねる鼓動の音が、静かな体育館に響き渡りそう。


『雄太が好きだ』と暴れ続ける心の声が、ふたりきりの世界に反響している。


いっそ、このまま雄太の胸にもたれかかりたい。


あたしを包み込むこの腕に、ぜんぶを預けてしまいたい。


こんなにもあたしは雄太が好き。でも……。


「どうか俺を信じて。この先もずっとずっと瑞樹を想うと絶対に誓うから」


でも、お願い。そんな儚い言葉を聞かせないで。


その誓いは、今のあたしたちだけに通用する小さな世界なんだ。


いつまでもここにいて、ふたりっきりで抱き合い続けてはいられない。


嫌でも勝手に時間は流れて、予測できない未来があたしたちに押し寄せてくるから。
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