ずっと恋していたいから、幼なじみのままでいて。
『ねえ、お母さん。お母さんはお父さんと…』


『なに? お父さんがなんだって?』


振り向きもせずに返事をするお母さんの背中を見て、あたしはそのまま言葉をのみ込んだ。


『……ううん。なんでもない』


本当はずっと、聞きたくてたまらないことがあるんだ。


でもどうしても怖くて聞けない。


もしも、もしもあたしの恐れる答えが返ってきたら、そのときあたしは、どうなってしまうのか……。


思いを巡らせながら視線をさまよわせていたら、ふと、床の上に置かれているネクタイに目が留まった。


あたしが父の日にプレゼントした、グレーとブラウンのストライプ柄のネクタイ。


お父さん、これすごくお気に入りだった。


いっぱいあるネクタイの中で、一番よく身に着けてくれていた。
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