ずっと恋していたいから、幼なじみのままでいて。
夜中に蛍光灯の明かりの下で、ひとりで黙々と自分の恋の後始末をつけているお母さんの背中を見て、思う。


ああ、ぜんぶ無意味だったんだなあ……。


どんなに希望を持っていても、どんなに最後まで頑張ったとしても。


ダメっていう圧倒的な現実の前では、どんな努力も願いも本当に無意味で、無力なんだなあって。


これから先に待ち構えている自分の未来と、今のお母さんの背中が重なるんだ。


さんざん悩んだあげく、やっと勇気を振り絞って渡り始めた橋が、途中で崩壊しちゃうこともあるんだって。


「瑞樹、ちょっと待っててね。今いいもの持って来る」


ベッドに寝ころんだままボーッとそんなことを考えていたら、海莉がそう言って部屋から出て行った。


と思ったら、すぐにパタパタと軽快なスリッパの音を響かせて戻ってきた。


部屋に入ってきた海莉が手に持っているのは……。


「わ、それ『花鳥風月堂』のフルーツケーキじゃない⁉︎」


あたしは反射的にベッドから起き上がって叫んだ。
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