あまいあまい、チョコレートあげる
そんなことを考えながら、教室のドアを通って席につく。
「遥瀬」
ギシッと椅子が悲鳴をあげた。
あたしが後ずさりをしようと抵抗したからだ。
「名前で呼ばないでよ、気持ち悪い」
毒をはいて、“ヤツ”を睨み付ける。
あたしの顔と“ヤツ”の顔の距離は、たったの数センチしかない。
「更谷(さらたに)って呼ぶのは他人行儀みたいでやだから」
と、女子ウケしそうな笑顔を見せた“ヤツ”――――湊川。
湊川は、モテる。
整った顔立ちをしてるし、高身長だし、なにより優しいから、モテるというのもうなずける。
……が、それは、あたし以外の女子に対してだけ。