わたし、BL声優になりました
「で、要件は?」
昼下がりの都内、カフェ。
店内の客層は疎らで、話し合いをするには少し静か過ぎるほどだった。
ゆらぎがやっとの思いで連絡を取り付けた相手─冬馬さゆ─は、あからさまに態度が豹変していた。
優しげに微笑んでいた彼女の面影は、最早どこにも見当たらない。
「……さゆはどうしたいの? 事務所移籍が望みなの?」
「は? 私が本当にそれを望んでるって思ってたの? 笑える。そんなわけないでしょ、あなたが……あなたが嫌いだからよっ!」
ゆらぎが控えめに問うと、苛立ちを隠そうともせずにさゆは声を荒げ、乱暴な言葉を投げつけた。
突然に吐き捨てられた言葉にゆらぎは動揺と悲しみを隠せないでいた。毒の塗られたナイフで心臓を一突きされたような感覚に動悸がする。
そうか。数少ない友人の一人だと思っていたのは私だけだったのか。
いつから? 出会ったときから?
互いが別々の事務所に入ったときから?
友情なんて、所詮そんなものなのか。
声を荒げるほど、そんなに私が憎かったのか。
頭から足先にかけて、すうっと冷えていく感覚に反して、意識はやけに濃く鮮明になっていく。