わたし、BL声優になりました
「じゃあ、なんなの。理由くらい言えば? そんなに私が嫌いなら最初から関わらなければ良かっただけだよね」

「あなたは……っ、あなただけは売れないって思ってたのに……見下してたからよっ! なのに、私より先に売れて、私はしたくもないアイドル紛いの仕事させられて、これじゃ、なんのために声優になったのか分からないじゃないっ! 私は! 私は吹き替えの仕事がしたかっただけなのにっ! なんで、歌いたくもない歌なんて歌わなきゃならないのよっ!!」

「事務所に相談は──」

「無理に決まってるでしょ!! そんなこと言ったら干されるだけ。あなただって知ってるくせに。この業界でそんな甘えたこと言ってたら、他の新人にあっという間に仕事を取られて終わるだけよ」

 さゆの言う通り、事務所の方針に従うしかないのは至極当然のことで、自分の意思を通したいならフリーになるしかない。だが、デビューして間もない私たちには、仕事を選べる立場でもなければ、実力も権力も経験もない。あまりにも無力だ。

 新人が溢れる時代で、そんな甘いことを言えるわけもない。そんなの私でも解ってる。知っていた。さゆが事務所との方針の違いで苦しんでいたことに気づけなかった。否、本当は気づいていて、見ないふりをしていただけなのかもしれない。

 彼女が吹き替えの仕事をしたいと、夢を語っていたのは養成所時代のときに聞かされていた。

 事務所に所属してからは、ルックス重視の仕事が増えていたことも知っていた。

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