わたし、BL声優になりました
「もう、話すことなんて何もないわ」
彼女はそう言い捨てると椅子から立ち上がり、ゆらぎには目もくれずカフェから去った。
残されたゆらぎは、テーブルに残された二つのコーヒーカップをただ茫然と眺めていた。
結局、何も解決しなかった。
交渉は決裂してしまった。
事務所に迷惑をかけ、黒瀬先輩の仕事を奪い、自身の立場をも失った。
私は何も出来なかった。
無力は罪なのか。
寮に帰ることも出来ずに、夜の街をさ迷い歩く。
様々な光が乱反射する景色に目眩がした。
いっそのこと、このまま世話しなく行き交う光の波に飛び込んでしまえば……。
そんな考えが脳裏をよぎる。
身体は無意識に赤信号の車道に足を踏み入れた。
「っ、ふざけてるの。きみは──」
自動車と触れる寸でのところで、強い力で引き寄せられ、暖かい何かに身体ごと包まれる。
「……」
覚えのある香りに安堵が込み上げ、目頭が熱くなる。
ああ、この香水の香りは──。
「どうして……」