わたし、BL声優になりました
「黒瀬から連絡がきた。きみが突然行方を眩ましたって。仕事を飛ばしたことも」

 私を抱きしめているのは、黒瀬先輩ではなくて、ウグイス先輩だった。

「そう、なんですね……」

「……死にたくなるほどにつらいなら、辞めればいい。全部、捨ててもいいよ」

「全部、捨てる……」

「僕が貰ってあげる。きみの悲しみも苦しみも全部。だから、忘れてしまえばいい」

 ──全部を捨てる。

 ──全てを忘れる。

 忘れられるかな。さゆのことも。
 
 黒瀬先輩のことも。

 走馬灯が廻る。

 思い出すのは黒瀬先輩の照れ隠しの表情や、仕事へ取り組む全力な姿。様々な思い出が溢れだしていく。止められない思いは決壊し、涙となって頬を伝う。

 私、黒瀬先輩のことが──。

 好きだったのかもしれない。

 気づかないふりをして、本心を隠していただけなのかもしれない。

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