わたし、BL声優になりました

「黒瀬くん、白石くんは見つかりましたか?」

 ラジオ騒動から二日後。
 午後三時半過ぎ。

 事務所の社長室には、田中銀次社長、赤坂マネージャー、黒瀬セメルの三人が集い、神妙な面持ちをしていた。

「いや、緑川にも確認は取ったが、見つからない」

「そうですか……」

 黒瀬の報告に赤坂は肩を落とす。

「彼女も大人だ。ここは少し様子見をしよう」

 そう発言したのは田中社長だった。

 忽然と姿を消したゆらぎ本人からの連絡は未だない。

 不安に駆られている赤坂。
 苛立ち、焦燥を滲ませる黒瀬。
 静かにこの状況を傍観している田中。

 そして、この元凶とも言える相手も、何のアクションも起こしてはこない。

 完全に八方塞がりの状態だった。

 ネットでは黒瀬に対する根も葉もない噂や誹謗中傷が続いている。このままでは、法的手段も視野に入れなければならないだろう。

「……社長」

「なんだい? 黒瀬くん」

「すみませんでした。俺が赤坂に何の相談もせずに、生放送のラジオで勝手な振舞いをして、事務所を窮地に陥れました」

 田中社長は相槌をすることもなく、黒瀬の言葉に耳を傾ける。

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