わたし、BL声優になりました
「勝手にしろ。……白石、正直に答えろ。お前は事務所を辞めたいのか」

 黒瀬が向かい合わせのゆらぎに問う。
 
「……そのつもりです」

「なんで」

「……それ、は……」

 黒瀬の問いにゆらぎは狼狽え、視線を降ろす。

 厳しいことを問われる覚悟をしていたはずなのに、いざ直面すると何も言えなかった。

 辞めたら、楽になれるから?
 自由になれるから?
 私が目指してた夢ってなんだった?

 脳裏に様々な疑問符が浮かぶのに、どれも正確な答えではない気がして、口を閉ざした。

「じゃあさ、仮に辞めたとして絶対に後悔しない自信はある?」

 黒瀬の言う後悔なら、もうしている。

 だからこそ、離れたいと思った。
 逃げたいと思った。
 そして、自分勝手に願った。

 本当なら黒瀬先輩に合わせる顔がないくらいに後悔している。でも、後悔しているなんて言えない。だから、嘘をついた。

「後悔、しません」

「そうか。なら、白石が緑川を頼った理由を教えてくれ。お前の性格なら、緑川なんかに頼らない」

「それはちょっと酷い言い草なんじゃない? 僕、そんなに信用ないの」

「ない」

 突然、二人の会話に割り込んできた緑川を黒瀬は、たったの二文字で一刀両断した。

「成り行きです」

「成り行きねぇ……」
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