わたし、BL声優になりました
 黒瀬は胡乱な眼差しで緑川を一瞥する。

「頼って貰えなかったからって、嫉妬は見苦しいよ。黒瀬くん」

「俺が嫉妬するわけないだろ」

 一触即発。とまではいかないが、相変わらず、他人の神経を逆撫でるのが上手い緑川は、一人勝ち誇った笑みを浮かべている。

 対する黒瀬の額には、青筋が浮かんでいるように見えなくもない。

「分かった。じゃあ、白石はこの業界から抜けて一般人になるんだな? なら、なんの問題もないな」

「問題、ですか?」

 そうか、やはり黒瀬先輩は内心、私のことを快く思っていなかったのだ。

 私がこの業界から消えることで、黒瀬先輩はもう一度やり直せるチャンスが生まれる。

 ──問題であった私が無かったことにされる。全て、リセットされる。

 これで、良かったんだ。

 やけに冷静に納得している自分がいた。

 深い深い暗闇にのみ込まれていく感覚に、ゆっくりと瞼を閉じる。


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