わたし、BL声優になりました
 待って。事務所を閉めるって、どういうこと?

 彼女の耳に聞かされたのは、あまりにも突然のことで、二人の会話の意味を理解することが出来なかった。

「閉めるって、どういうことですか……」

 ゆらぎの問いに赤坂は視線を逸らし、代わりに答えたのは黒瀬だった。

「そのままの意味だ。もう、この事務所はこれまで通りに、事業を継続出来る程の力は残ってない。なんせ、稼ぎ頭だったのは俺ひとりだったからな。こうなったら、後はなし崩しになるだけだ」

「そんな……」

「残念ながら、黒瀬くんの言う通りです。これ以上、事務所を今まで通りに運営することは出来ないでしょう。

 新規の仕事が入っていないのでは、どうすることも出来ません。営業は続けていますが、今は黒瀬を起用するのを控えたいと言う反応が、ほとんどでしたし」

 まさか、こんな事態になっているなんて思ってもいなかった。

 一朝一夕で経営難なるなど考えにくい。ということは元々、ぎりぎりの状態で運営していたということか。

「ですが、社長から二人に伝言を預かっています」

「ん、なんだ?」

 赤坂は手にしていた手帳から四つ折りにされた紙を取り出すと、音読し始めた。

「こんな形で終わりを迎えることになって、本当にすまなく思っている。

 だが、今は忍び耐える時だと僕は思っている。だから、君たちも簡単に諦めないでくれ。

 道はいつか必ず拓かれるのだから……以上、ですね。社長からの伝言は」

「それだけ、か……」

 黒瀬はそれきり、口を閉ざした。

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