わたし、BL声優になりました
「黒瀬先輩、辛いの苦手なんですね」

 黒瀬先輩の大袈裟なリアクションを見ていると、思わず笑みが溢れて、先ほどまでの憂鬱な気分は、どこかへ飛んでしまった。

「……体、張った甲斐があったな」

 残りの水を飲み干した後、黒瀬は柔らかな笑みを浮かべて、ゆらぎを見つめた。

「え?」

「落ち込んでるみたいだったから。元々、感情をあまり表に出さないお前が、あんなに項垂れてたら、誰だって心配するだろ」

「私、落ち込んでましたか」

「ああ。負のオーラが漂ってた」

 黒瀬先輩に悟られるくらいに、落ち込んでいたのか。

「言っておくが、自分を責める必要はない。俺たちの職業は特殊で、こうなることも想定内だ。

 顔も知らない人たちに、意味もなく嫌われることだってある。けど、だからって自分を責めたって何も変わらないし、変えられない。

 まあ、だからって、強くある必要もないんだけどな。自分から進んで独りになる必要もない。……背負い過ぎるな」

 黒瀬の言葉は重みがあった。

 きっと、ゆらぎがこの業界に足を踏み入れる前から、彼は様々なものを犠牲にして、覚悟して生きてきたからだろう。

 いつだって、悪意はすぐ隣にいる。

 自分を脅かす存在に屈しては、生きてはいけない。

「だから、謝るな」

 声が出なかった。否、出せなかった。

 涙が溢れて止まらなかった。声を出そうとすると嗚咽に変わってしまう。

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