わたし、BL声優になりました
「……ウグイス先輩、ですか?」

 どうして、そこで緑川の名前が出るのか。ゆらぎは不思議で仕方なかったが、聞き返すのも気が引けて疑問を飲み込んだ。

 黒瀬はゆらぎの顔を両手で壊れ物を扱うように触れると、その唇にそっと自身の熱を押し当てた。

「白石が女だって気づいてから、ずっと好きだった」

「…………」

 ゆらぎは黒瀬の告白に応えられないまま、黒瀬の瞳を見つめる。

 一度、触れただけの唇に残る感触と熱に、心が揺らいだ。

 ──伝えたい。私も黒瀬先輩のことが好きだと伝えたい。なのに、上手く言葉が出ては来なくて、喉を詰まらせる。

「……嫌、だったか」

 悲しげに問う黒瀬に、ゆらぎは首を横に振り、否定する。

「わた、し……」

「あー……、ごめん、ストップ。これ以上は俺が堪えられない。うん、返事は今じゃなくていいからさ。弱ってる時に言った俺も卑怯だし」

 離れていく黒瀬の腕の感触に、ゆらぎは寂しさを覚えて、思わずその手を引き留めた。

「違うんです。聞いて、ください……」

「……分かった」

 黒瀬は覚悟を決めたのか、ゆらぎの次に続く言葉を待ちわびた。

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