わたし、BL声優になりました
 「……先輩?」

 「え?」

 きょとんとしているゆらぎの表情を見て、黒瀬は我に返る。

 「悪い。なんだっけ」

 「だから、私、事務所を辞め──」

 言いかけたゆらぎの言葉を、黒瀬は人差し指で優しく閉ざした。

 「これ以上は言うな。堂々巡りだし無意味だ。俺も声優を辞めるつもりはないし、お前が責任を感じて辞める必要もない」

 「でも……」

 「でももへちまもあってたまるか。俺はこんな所で終われないんだよ。お前もいつまでもうじうじするな。早速行動に移すぞ。返事は全てが終わった後、改めて聞かせて貰うからな。覚悟しておけ」

 いつもの調子が戻り始めた黒瀬は、ゆらぎの言葉を強引に押し留めた。

 きっと、今ゆらぎの答えを聞いたとしても、冷静で居られる自信はない。

 と同時に自分から答えを急いていて、やっぱり聞きたくないと思ったのは、否定されるのが怖かったからだ。

 好きな相手からの拒絶が一番堪える。
 それを解っていたから。

 恋心というものは、自信家の黒瀬さえも臆病にさせるらしい。
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