わたし、BL声優になりました
 あの時、結局、言えなかった。

 『黒瀬先輩のことが好きです』

 そう言えたなら、私の心は晴れたのか。自問自答する。

 否、罪悪感を抱えたままの状態で告げたとしても、きっと自分の心に影を落とすだけだ。

 こんな状態じゃなければ、どれだけ良かったのだろう。

 いつから、好きになっていたのか。
 考えてみても、分からなくて。

 自分でも気が付かないうちに、黒瀬先輩に心が惹かれていた。

 自分が悪いと責めるのは簡単だ。けれど、この状況を打破する鍵も、きっと私自身だ。

 ゆらぎは荷物をまとめ終え、殺風景になった部屋を見渡す。

 元々、私物は少なかったから。違和感は少ない。

 もう、ここには戻らない。戻れない。

 ──さよなら。黒瀬先輩。

 黒瀬が外出している今、このチャンスを逃さない様に、ゆらぎは今一度、帽子を目深に被り直し、膨らんだボストンバッグを手に、そっと部屋を離れた。
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