わたし、BL声優になりました
 黒瀬は緑川のわざとらしい芝居に、胡乱な眼差しを向ける。

「いや、思ってるよ。だって、彼女の心は黒瀬にしか向いてないから。いくら僕でも分が悪いって」

 そう言って、緑川は微かに自嘲した。

 僕がいくら本気だと訴えかけても、彼女の心には微塵も届かなくて、ただただ虚しくすり抜けていくだけだ。

 本当に惨めなのは僕のほうなんだよ。

 言葉で伝え合っていないだけで、互いに惹かれ合ってる君たちの間に、僕が入る隙は少しもない。

 解ってるよ、本当は。

 けど、僕も大概諦めの悪い男だから。

 だから、最後の最後まで譲れないんだ。譲りたくないんだよ。

 そんな想いを吐露出来ない緑川は、つくづく損な役回りだと自身の心を慰めた。
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