わたし、BL声優になりました
 誰が悪いわけでもない。

 私の詰めが甘いせいで、この結末を向かえただけだ。我ながら自業自得だと思う。

 でも、これで良かった。

 いずれは明るみになる事実。それが、少し早まっただけで、むしろ予定調和だったのかもしれない。


「……ゆらぎちゃん。大丈夫?」

 ゆらぎを深い回想の海から引き揚げたのは、九十九院の美しい声音だった。

 ハッとし、顔を上げて九十九院を一瞥する。

 彼女は心ここに在らずな、ゆらぎを心配そうに見つめていた。

「すみません。大丈夫です。」

「そう。なら良いけど。あ、私これから用事があるのよ。だから、合鍵を渡しておくわ」

「え? 合鍵? でも、勝手には……」

「大丈夫よ。見られて困るようなものは何もないわ。銀次に伝えておいたから、そろそろ迎えに来ると思う。それじゃあね。ゆらぎちゃん」

 微笑を浮かべ、ピンヒールをこつこつと鳴らしながら、颯爽と美容室を後にする九十九院の後ろ姿を眺めていた。
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