わたし、BL声優になりました

「お疲れさま、白石くん。緊張した?」

「久し振りにマイク前に立ったので、もう手汗がすごかったです」

 台本を脇に挟んで、汗ばんだ両手を見つめる。

 無事にオーディション用デモテープの収録を終えて、スタジオを出ると急に疲れを感じた。

 これほどまでにも緊張していたとは思わず、自分自身に驚く。

「ははっ。でも、良かったよ。オーディション通るといいね。いや、通らないと困るかな?」

「赤坂さん、プレッシャーかけないでくださいよ」

 自分なりに精一杯の演技はした。けれど、自信があるかと問われれば皆無に等しい。

 唯一救いだったのは、オーディションの台本には濡れ場のシーンが無かったことかもしれない。

 事務室に戻り、今日の予定は無事終了。

 午後からはアルバイトとして、赤坂の仕事を補佐することになっていた。

 というのも、ゆらぎが男装をして性別を偽っている以上、一般的なアルバイトは事務所から禁止されているのだ。

 万が一、デビューする前に『白石 護』の秘密が世間にバレてしまっては、社長の目論みも全てが白紙になってしまう。

 故に、ゆらぎのアルバイト禁止令は、そうならない為の事務所なりの安全策を取った結果だった。
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