わたし、BL声優になりました
 一瞬、鼻腔を掠めたのは、今までとは違うシャンプーの香りか。

 このまま、抱きすくめてしまいたい衝動に駆られる。その不埒な感情を、僅かに残っていた理性で、ぐっと押し留めた。

「……近い。あんまり見るな。髭生えてるの見られたくないんだよ」

「あ、すみません。なんか、新鮮だなぁと思って。黒瀬先輩の髭姿初めて見た気がします」

「俺だって男なんだよ。髭くらい生える」

 違う、違う。俺は髭の話がしたいわけじゃない。

 なんだ、これは。
 なんなんだ、この感情は。

 まるで、初めて恋愛したかのような感情の誤作動に、黒瀬は存在しない心のリセットボタンを押したくなる。

「えっと……」

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