わたし、BL声優になりました
「あ! そうだ。白石くん、今日は一緒にセメルくんを迎えに行ってみない?」
「え? 大丈夫なんですか。怒られたりしませんか」
ゆらぎは事務作業を手伝いながら、赤坂を一瞥する。
「大丈夫。お仕事の邪魔はしないよ」
そう言われても、些か不安がある。
何と言ってもあの黒瀬だ。
見学気分で収録現場へノコノコと行ったら、怒られるのではないだろうか。
ゆらぎが答えあぐねていると、赤坂はすでに決定事項と言わんばかりの微笑を向けてた。
時々、赤坂が発揮する他人に有無を言わせない強引さは、まさに黒瀬そっくりだった。
ファンはタレントに似ると言うが、実はマネージャーもタレントに似るんじゃなかろうかと、考えながらゆらぎは仕方なく苦笑を返した。
収録が終了する時間を見計らって、黒瀬がいるスタジオへ赤坂の運転で向かった。
どうやら、タイミングはバッチリだったようで、車が近くの駐車場に入ったところで、マスク姿の黒瀬が現れた。
「セメルくん、迎えに来ましたよ」
赤坂が運転席のウィンドウを下げて声を掛ける。
「おー、サンキュー」
「お疲れさまです。黒瀬さん」
同じようにゆらぎも黒瀬に挨拶をすると、彼は彼女がいることに、別段驚くこともなく後部座席に乗り込んできた。
「なに、白石も収録終わり?」
「いえ、なんか成り行きで赤坂さんに着いてきただけです」
「なんだそれ? まあ、いいけど。それより腹減った。赤坂、コンビニ寄ってくれる?」
「また、唐揚げですか?」
赤坂が車を発進させると、黒瀬が携帯を操作しながら行き先を指定する。
彼の『また』という言葉を聞く限り、黒瀬は仕事終わりにコンビニによく寄ってもらっているのだろう。
「いいじゃん。仕事終わりの唐揚げ。最高だぜ?」
てか、そんなに唐揚げが好きなんですか。
しかも、そのチョイスがコンビニの唐揚げの王様とか、売れっ子声優なのに、すごく安上がりな人だ。
自分と同じ後部座席に座っている、コンビニの唐揚げが大好きな人物が、BL界隈ではドS王子として君臨しているとは実に摩訶不思議《まかふしぎ》。