わたし、BL声優になりました
第二章
私はいま、何故この場所にいるのか。
そんな疑問を胸に、ゆらぎは向かい合わせで対面している黒瀬を一瞥する。
場所は都内某所のラジオスタジオ。
無論、ラジオの収録をする為に、ここにいるということは自分にも理解出来ている。
けれど、この状況はどう考えてもおかしいのでないか。
──どうして私が、黒瀬さんのラジオにゲスト出演しているのだろうか。
それは約一日前に遡る。
スタジオでの収録を終えた黒瀬を、赤坂と共に迎えに行った帰り道。
車内で突然始まった赤坂と黒瀬の口論。
事の発端は黒瀬が、ゆらぎの日程を聞いたことが始まりだった。
「白石くん、セメルくんが何かおかしなことを言っても気にしなくていいですからね」
コンビニの駐車場で、黒瀬の買い物を待っている間、運転席から後部座席へ顔を覗かせた赤坂が言う。
「はい」
少しだけ黒瀬について踏み込んだ話を聞こうかと思案していると、買い物を終えた黒瀬がタイミング良く現れ、結局は聞けず仕舞いに終わった。
寮に戻った後、午後八時半過ぎに黒瀬がゆらぎの部屋を訪ねて来た。
「……なんのご用ですか」
「さっき車で聞きそびれたやつ。明日の午後はスケジュール空いてるんだよな」
黒瀬に問われて、沈黙する。
ここは素直に答えてもいいのか。
それとも駄目なのか。
赤坂さんには、間に受けなくてもいいと言われている。
「えっと……」
「白石のスケジュールボード確認したら真っ白だったし」
「そう、ですね……。たぶん何も予定はないかと」
そこを指摘されたら、何も言い返せなかった。しかも、こんな時に限って二号室の住人、赤坂さんは社長と出掛けているし、誰も頼れる人がいない。
この状況は、ゆらぎ的に絶体絶命だった。
「よし、なら決定だな。白石、お前明日俺のラジオに出ろ」
「……は?」
「赤坂には伝えておくから。じゃあなー」
「え! ちょっと、黒瀬さん!」
玄関に立ち尽くして、断りの言葉を考えている間に黒瀬の話は勝手に進み、彼は言いたいことだけを言って踵を返した。