わたし、BL声優になりました

 早めに就寝しようと入浴を済ませて、リビングに戻ると携帯の着信ランプが点滅していた。

 濡れた髪の毛も乾かさずに携帯を確認すると、メッセージの相手は、連絡先を交換していないはずの緑川からだった。

『お疲れ。今日現場で言うの忘れてたけど、ボクの連絡先、君の携帯に入れといたから。でも、携帯にロックかけてないとか無用心すぎ』

 いや、普通に怖いです。ウグイス先輩。
 勝手に何してるんですか。

 緑川の実に勝手な行動に呆れ果て、ゆらぎは画面のメッセージを複雑な心境で見つめる。

『で、黒瀬の休みはどんなかんじ?』

 続くメッセージに、先ほど事務室で見た黒瀬の予定表を思い出す。

 だが、黒瀬の貴重な休みを部外者が勝手に伝えていいとは思えない。 

『黒瀬先輩の休みは分かりませんでした』

 黒瀬の休みは分からなかったことにして、やり過ごそうと、愛想のないメッセージを送信する。

 すると、数分と経たずに緑川からの返信が届いた。

『分かった』

 随分と聞き分けの良い返事だなと思っていると、今度は電話の着信音が鳴り響いた。

 相手は無論、緑川だった。

 このまま無視を決め込み、眠りに就こうとベッドに横たわるも、着信音は鳴り止まず、ゆらぎは渋々に通話に切り替える。

「……なんでしょうか」

『電話出るの遅いんだけど。それより、黒瀬の休み分かんなかったの?』
 
「勝手に教えられませんよ」

 緑川に文句を言われるも、構わずに話を進める。

『ふーん……。まあ、いいけど。なら、今度の休みはボクの家に来てよ』

「それは強制ですか?」

 唐突な誘いに、ゆらぎは眉間にしわを寄せた。

 黒瀬の休みを確認したがったり、かと思えば家に来いと命令したり、ウグイス先輩は一体何がしたいのか。

『そう。強制だね。君はボクに弱みを握られてる立場なんだから、言うこと聞きなよ』

「納得いかないんですが」

 確かに弱みは握られている。

 けれど、だからと言って、簡単に彼の言いなりには成りたくない。

 返事が出来ずにいると、緑川が更に追い討ちを掛ける。
 
『逆らうの?』


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