わたし、BL声優になりました

「いえ、別に……」

『うん。それでいいよ。じゃあ、改めてまた連絡するから』

 緑川の満足げな声音と共に、通話は一方的に途切れた。

 本当なら行きたくはない。

 しかし、彼に弱みを握られている以上、無下に逆らうことも出来ない。

 ゆらぎが何より一番恐れているのは、逆らったときの彼からの報復だった。

 秘密を世間に口外されることだけは、何としても阻止しなければならない。

「……しくじったなぁ。わたし……」

 ベッドで仰向けになり、顔を両手で覆ったまま、ゆらぎは後悔の言葉をポツリと小さく呟いた。


 ──収録四日目。

「今日は午後からセメルくんと一緒に収録です。午前中は好きに過ごしてもらって構いません」

「はい」

 スケジュールの確認を終えると、赤坂は慌ただしく事務室を出て行く。

 ゆらぎは緑川のことを赤坂に相談しようとしたが、タイミングを逃して結局は言いそびれてしまった。

 今日の収録現場に緑川は居るのだろうか。
 出来ることなら、彼と顔を合わせたくない。

 ゆらぎにそう思わせるくらいに、現在の緑川の心証は最悪だった。
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