わたし、BL声優になりました
 赤坂が予約を入れていた事務所御用達の美容院で、ゆらぎは胸辺りまで伸ばしていた髪の毛を、男性的に見えるように、ばっさりとカットした。

 今時の若手男性声優の髪型は、清潔感溢れる黒髪のマッシュショートヘアが流行りらしく、ゆらぎも例外に漏れず、少し中性的な雰囲気の髪型にチェンジされた。

 美容院から事務所へ戻ると、事務室で仕事をしていた赤坂が、ゆらぎの姿を見てパッと笑顔を輝かせる。

「ロングヘアも良かったけど、ショートも凄い似合うね」

「ありがとうございます……」

 自身のタレントを褒める為の、お世辞とは言え、褒められることに慣れていないゆらぎは、胸の奥が何だか少し、こそばゆい感じがした。

「じゃあ次は服なんだけど……時間がなくて一緒に見に行けないんだ。悪いんだけど、ここのお店に行ってみてくれるかな。地図のURLを送るね」

 赤坂が申し訳なさそうに言い、ゆらぎの携帯に店の住所と簡単な地図が描かれているURLをメールで送信する。受信したメールの内容を確認して頷いた。

「大丈夫です。行ってきます」

「ああ、ちょっと待って。その後は寮へ案内するから、買った服に着替えてきて欲しいんだ」

「分かりました」

 赤坂が指定した店は落ち着いた大人の雰囲気で、若者向けというよりは、三十代向けのファッションを中心とした品揃えの店舗だった。

 当然の如くメンズファッションに疎いゆらぎは、店員に頭から爪先までをトータルコーデしてもらい、そのコーデを一式購入した。

 だが、わざわざ店員にコーディネートしてもらったものの、結局は黒いシンプルなシャツに、ジーパンという無難過ぎるファッションに着替えて、再度事務所へ戻る。

 時刻はすでに、午後二時を回っていた。

「戻りました」
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