わたし、BL声優になりました
 『先輩の下着姿を見たからです』と、正直には言えない。

 そんなことを口走ってしまったのなら、私は確実に変態扱いされてしまう。

「黒瀬先輩。風邪を引かれても困るので、早く服を着てください」

「なんだよ。白石まで赤坂みたいなこと言うな」

 不満を洩らしながらも、黒瀬は寝室で部屋着に着替えてから、定位置のソファに腰を降ろした。

「あ。そう言えば、緑川から連絡が来てさ。金曜に、俺と白石と緑川の三人で遊びに出掛けないかって」

「は? オレも、ですか?」

 黒瀬から突然に言われ、ゆらぎは驚く。

「そう」
 
 そんな話、ウグイス先輩からは一言も聞いていない。

 ということは、きっと、私に拒否権は無いのだろう。仕込まれた感が否めないが、簡単に拒絶も出来ない。

 はっきり言って、複雑な心境だった。

 黒瀬は片手で缶ビールのフタを開けると、勢い良くアルコールを呷った。

 嚥下する度に喉仏が上下する動きを、無意識に追い、眺めていると不意に視線が合う。

「さっきからなんだよ。やっぱり熱でもあるんじゃないのか」

「え? いえ、熱はありませんよ。ただちょっと、ぼーっとしてただけです」

 そう。ただ、ぼーっとしていただけだ。

 別段、変な意味で彼を見つめていたわけではない。……きっと。

 なのに、顔の火照りが治まらないのは何故なのか。黒瀬先輩の言う通り、私は熱に浮かされているのだろうか。

 だとしたら、風邪を引き始める前に少し身体を休ませなければ……。

 思考に呑まれたゆらぎは、走馬灯のように流れていく映画を、ぼんやりと見つめていた。


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