わたし、BL声優になりました
 しかも、そんな笑みで言われたら、ちょっと嬉しくなってしまうじゃないですか。

 ここ最近のウグイス先輩の問題行動も全て、無しにしてしまいそうになる。

 その笑顔は本当に罪じゃなかろうか。

 ──って。あの笑顔に惑わされたら駄目だ。

 実際に今、私は痛い目に遭っているというのに。


 長丁場の収録が終わり、緑川と共に収録室を出る。

「ちょっと、マネージャーと話してくるから休憩室で待ってて。勝手に帰ったら、どうなるか、分かってるよね?」

「逃げたりしません。じゃあ、休憩室で待ってます。お疲れさまでした」

 先ほどの緑川の天使のような笑みに、すっかり絆《ほだ》され、ゆらぎの逃走心は完全に薄れていた。

 自販機でペットボトル入りの無糖の紅茶を買い、近くのソファに腰掛ける。

 今日の収録は、今までにない感覚だった。

 黒瀬先輩との収録でも、あんなに息の合った演技をすることはなかった。

 寧ろ、ウグイス先輩の演技に釣られて、演じている人物の感情を引き出された感じがする。

 演技に関しては相性がいいのだろうか。
 それとも、私が収録に慣れてきただけなのか。

「ごめん、遅れた」

「あ、いえ」

 思考に耽っていると、不意に休憩室の扉が開き、緑川が入って来た。

 ここは後輩らしく気を効かせて、飲み物でも買って渡したほうがいいのかと逡巡する。
 
「じゃあ、どうする? ご飯でも食べに行く?」

「え? えっと、お任せします」

「分かった」

 そう言い、休憩室を出て行く緑川の後に、ゆらぎは慌てて続いた。
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