わたし、BL声優になりました
「で、今日の黒瀬はどうして不機嫌なのかな?」
「あ? いつも通りだろ」
「いやいや、態度が、あからさま過ぎるでしょ。理由は白石くんが来なかったから?」
緑川の言う通り、今日の黒瀬は少し歩く速度が早い。苛々としているのが、態度から丸分かりだった。
黒瀬先輩の苛立っている理由が自分だとしたら、少し罪悪感を覚える。
私、本当はここに居ますけどね。
なんて、今は口が裂けても言えない。
前方の二人から少し距離を置いて、歩いていると不意に緑川が振り向き、意見を求めた。
「ね、シライさんも、せっかく来たんだから楽しい方がいいよね」
「そ、そうですね。……はい」
緑川の完全なる不意討ちのお陰で、ゆらぎは普段通りの声で答えそうになり、気が動転する。
突然、話を振らないでもらえますか。
ウグイス先輩……。
ゆらぎの心の叫びも虚しく、緑川はこの可笑しな状況を心底楽しんでいる様子だった。
「ボク、チュロス食べたいから、席外すね」
「え……?」
テーマパーク内のカフェで休憩をしていると、緑川がゆらぎの戸惑いも余所に、わざとらしく席を外してしまう。
残された黒瀬とゆらぎの席には、何故か重苦しい雰囲気が漂っている。
「あいつ、甘いもん買いに出たら、しばらくは帰って来ないぞ」
「そ、そうなんですか? どうしよう……」
黒瀬の言葉に、ゆらぎは絶望した。
緑川は孤立無援のゆらぎを放って置きながらも、ちゃっかりとテーマパークの甘味を楽しむらしい。
ウグイス先輩のこの無責任さは、どうにかならないのか。
このままだと気まずさで、気分まで悪くなりそうだ。