わたし、BL声優になりました
緑川の計画が惨敗した日から数日後のこと。ゆらぎは昼下がりの事務室で一人、雑務をこなしていた。
すると……。
「ちょっと! 銀次! 銀次はいないの!」
女性の怒声と共に事務室の扉が、大きな音を立てて乱暴に開け放たれた。
ゆらぎは反射的に立ち上がり、身構える。
「誰……って……ええ!? 九十九院トキさん!?」
「あら? あなたは新しく入ったマネージャーさん?」
「い、いえ。わたっ、オ、オレは、この事務所に所属している者です」
突然の来客に、ゆらぎは驚きを隠せないでいた。
何故なら、今、自身の目の前にいるのは、長年の憧れを抱き、なおかつ尊敬をしている女性声優の九十九院《つくもいん》トキだったからだ。
どうして、彼女がこの事務所に訪れたのか。
脳裏に次々と疑問が浮かび上がる。
目下、一つだけ分かるのは、彼女が発した『銀次』という名は、この事務所の──つまり田中社長の名前だ。
「そうなの。なら、赤坂はいないの?」
「赤坂さんなら、会議室にいるかと……。何かご用でしょうか?」
「用はあるけど、銀次がいないなら話にならないわね」
田中社長を下の名で呼ぶほど仲がいいのだろうか。もしや、社長の恋人?
そもそも、社長は結婚していただろうか。
生憎、その辺りの記憶がない。
九十九院は躊躇いもせずに、事務室のソファに腰を下ろした。
これは、言われなくてもコーヒーを用意しなければいけない。
「あ、コーヒーご用意致しますね」
「あら、気にしなくても大丈夫よ。あなたは銀次と違って良い子ね」
ゆらぎが給湯室へ向かおうとすると、彼女の魅惑的な声音によって制止された。
あの麗しの九十九院ボイスを生で聞けるなんて、なんたる至福の時なのだろう。
柄にもなく、ゆらぎの気分は密かに上昇していた。
絶対に会う機会は無いだろうと思っていた相手だ。
それなのに、まさかこんな所で会えるなんて思ってもいなかったのだ。
嬉しさで、つい表情が緩んでしまう。
──夢なら、どうか覚めないで欲しい。
すると……。
「ちょっと! 銀次! 銀次はいないの!」
女性の怒声と共に事務室の扉が、大きな音を立てて乱暴に開け放たれた。
ゆらぎは反射的に立ち上がり、身構える。
「誰……って……ええ!? 九十九院トキさん!?」
「あら? あなたは新しく入ったマネージャーさん?」
「い、いえ。わたっ、オ、オレは、この事務所に所属している者です」
突然の来客に、ゆらぎは驚きを隠せないでいた。
何故なら、今、自身の目の前にいるのは、長年の憧れを抱き、なおかつ尊敬をしている女性声優の九十九院《つくもいん》トキだったからだ。
どうして、彼女がこの事務所に訪れたのか。
脳裏に次々と疑問が浮かび上がる。
目下、一つだけ分かるのは、彼女が発した『銀次』という名は、この事務所の──つまり田中社長の名前だ。
「そうなの。なら、赤坂はいないの?」
「赤坂さんなら、会議室にいるかと……。何かご用でしょうか?」
「用はあるけど、銀次がいないなら話にならないわね」
田中社長を下の名で呼ぶほど仲がいいのだろうか。もしや、社長の恋人?
そもそも、社長は結婚していただろうか。
生憎、その辺りの記憶がない。
九十九院は躊躇いもせずに、事務室のソファに腰を下ろした。
これは、言われなくてもコーヒーを用意しなければいけない。
「あ、コーヒーご用意致しますね」
「あら、気にしなくても大丈夫よ。あなたは銀次と違って良い子ね」
ゆらぎが給湯室へ向かおうとすると、彼女の魅惑的な声音によって制止された。
あの麗しの九十九院ボイスを生で聞けるなんて、なんたる至福の時なのだろう。
柄にもなく、ゆらぎの気分は密かに上昇していた。
絶対に会う機会は無いだろうと思っていた相手だ。
それなのに、まさかこんな所で会えるなんて思ってもいなかったのだ。
嬉しさで、つい表情が緩んでしまう。
──夢なら、どうか覚めないで欲しい。